恋々

「よし、こい」
「……は?」

ぺしぺしと叩かれたのは彼自身の太ももで、来いと言われても、と返事に窮した。とりあえずすぐ横に立ってみるが、倉間先輩は動かずにただ俺を見上げ、再び自分の足を叩く。

「こい、とは」
どういうことですか。首をかしげてたずねる。
「どうもこうも…首が痛いからまずは座れ」
「はい」
「こいっつーのはな」

言うと同時に手首を掴まれ、そのまま肩から引っこ抜かれるのではと思わせる勢いで引かれた。バランスを崩して彼の膝の上に落ち、なにをするのだと抗議するために体を反転させたところで、倉間先輩がにんまりと笑っているのに気づいた。手首をつかんでいた筈の手はいつの間にかその先の指に絡んで、もう片方は俺の髪を優しく撫でる。

「こういうこと」

額に指が触れ、あたたかさに目を閉じた。つるぎ。甘やかす声にとろけそうになる。

「おまえはもっと、甘えにこい」

かたい膝枕はそれでも心地が良い。目を開くと嬉しそうな彼がいる。この機会にとすぐ目の前の胴にぎゅうとしがみつき、抱き返す甘さをじっくり味わうことにした。