午前二時、君の気配

「眠れん」

扉を叩かれた午前二時。仕方なく鍵を開けてやると、寝ぼけ眼をこすりながら麗日はそう言った。

「嘘つけやさっきまで寝てた面だろうが」
「嘘やない……」
「嘘だろうがどう見ても。目ェ開いてねえぞ」

かくり、かくりと首を揺らし、寝癖のついた頭で、馬鹿みたいな嘘をつく。ついさきほどまで爆睡していたことは明白だ。本当に馬鹿なのかと思ったところで、彼女の指先が爆豪の裾を摘んだ。どくりと心臓が跳ねる。気づかないふりをする。

「……オイ。離せ」
「寝れんの、私やなくて、爆豪くんが。この時間まで起きとったんやろ。寝れてないんやろ」

ちゃんと寝んとダメやんか。
わかっていたが、どうやら寝ぼけているらしい。抑揚なくつらつらと喋り、麗日は一歩踏み出す。傾いた体が爆豪の胸にもたれ、ごく近くで、爆豪くん、と呼ぶ声がした。

「……目が覚めてしまって。なんとなく、爆豪くん、寝てないやろうなって思って。だから来てみたら、本当に起きてた」

目の前に、麗日のつむじが見える。服を摘んでいたはずの手は、いつの間にか背に回っていた。
この女は馬鹿だ。大馬鹿だ。男の部屋にこんな状態でノコノコとやってきて、あまつさえ抱きついてくるとは。危機管理能力の欠如した、ヒーローとしてあるまじき大馬鹿だ。
しかしその大馬鹿に惚れ込んで、小さな体を抱き返している自分こそ、救いようのない阿呆なのだろう。

「……馬鹿かテメエは、なんで来てんだ」

抱きしめたまま、体を引く。開いたままだった扉がゆっくりと閉じる。世界から遮断されたような気分だった。錠を下ろす音がやけに大きく聞こえ、麗日が少し震えた気がした。

「眠れんの、つらいやん。だから来ちゃった」
「そうじゃねえ。わかってんのか」

頬に手を添え、こちらを向かせる。寝ぼけて融けた瞳が爆豪を映し、そしてへにゃりと笑った。

「わからんって、言えたらええのになあ」
「言ったら殺す」

そうしてひとつ、キスをした。頬の赤みが増したのを、爆豪は見逃さなかった。

「付き合え」
「ん。朝までなら」

ふたつ、みっつと数を重ね、夢中になって貪り合う。それからどれほど時間が経ったかもわからない。カーテンの隙間から漏れた朝焼けを肌に浴び、そこでやっと、朝が来たのだと知った。