甘い甘い、

「がんばったなぁ」

語尾を少しだけ伸ばした声がすぐ耳元で聞こえてひどく安心した。自分はずっとこれが欲しかったのだと、初めて気がついた瞬間だった。
声の主は俺の髪をぐしゃぐしゃとかき混ぜて、それから背中を手のひらで優しく叩く。いつもの彼からはあまり想像できないほどの優しさに泣きそうになる。胸の奥がじんと熱くなって、みたされていくのをかんじる。

「せんぱい」

自分の声が甘えきっていて驚くが、事実甘えているのだから、それはそうだと納得した。
倉間先輩が額を合わせてきて、至近距離で見つめあった。ゆっくり目を閉じると笑う気配。

「はいはい」

まずは唇、それから額、頬、鼻。顔中にキスを落とされて、それが俺はとても好きだった。彼のものだ。俺は、いま、彼だけの。
静かに触れ合うだけの時間がこんなにも愛おしい。耳に彼の唇が触れて、ふ、息を吐いて、軽く身をよじる。するりと首に触れた指があたたかくてくすぐったい。

「倉間先輩」
「うん?」
「くすぐったい」
「うん」

確信犯は首から鎖骨に指を伝って、それから俺の胸の中心を軽く押した。逆らわずそれまで座っていたベッドに背をつけて、けれどされるがままなのは悔しかったから、隠れた左目を暴いてやる。現れた瞳の奥の、奥の方に、ぎらついたものがあるのを見た。
倉間先輩は俺の腹の少し下あたりに跨っている。屈んで目元にキスをして、また額を合わせて、くつりと笑った。

「……当たってるし」
「男なんだから、しかたないでしょう。……先輩だって」
「まあ、そうだけど。……する?」
「はじめからそのつもりですよね」
「まあな。でも今日は甘やかすって決めた」
「……つまり?」
「どうされたい?」

甘やかされるのも一筋縄ではいかない。
じわりじわりと熱をはらむ顔は抑えようもなく、彼の両頬を手のひらで包んで、それから首に腕を回して抱きついた。

「……先輩の、好きに」
「言ったなこのやろう」

すぐさま裾から入り込んできたのには少々驚いたが、彼のものになるということは変わりがない。それも彼の好きなようにされるのだから、これ以上の抱かれかたはないだろう。胸の尖りに触れる指先に声を抑えながら、おそらく自分はいま世界一、宇宙一幸せなのだろうと、そんなことを思った。