爆弾投下のその先は

「レオ君の隣は安心しますね」

晴れ渡った空の下、ペンキを塗って三日目のぴかぴかなベンチの上での、唐突な口説き文句。あまりの衝撃に飲んでいたジュースを盛大に吹き散らかして、そのうえ噎せて咳き込んだ。げほがほと苦しむ僕の背を撫でつつ、ツェッドさんは話を続行する。

「前から思っていたんですが、レオ君が横にいると安心するんです。お日様の暖かさがすぐ近くにあるような、そんな気分になる」
「うぇ、げほ、そすか…………」

ようやっと落ち着いてから返事をして、したけれど反応に困った。大変に困った。なんせ意図が汲み取れないのだ。いっそそのまま「好きです」とでも続けてくれれば楽なものを。

「えーと……ありがとうございます」
「それは僕の台詞ですよ。いつもありがとう、レオ君」
「やーそんな、大したことはしてないです」

なにより、大体が下心からくる行動ばかりだ。今日のこの昼飯からの散歩だって、できるだけふたりでいたいから提案したに違いなかった。それを楽しんでくれていたのなら上々だ、そして気持ちを隠しおおせた自分にも拍手を贈りたい。
しかしまあ、下心抜きにしても彼の初の友人としてできることはしてあげたかったから、この結果は最高だろう。そしてこれからも、彼のトラウマにならないように友人を続けていけばいい。

甲高い鳴き声がした。先程ジュースを吹き出したときに、どこかへ逃げ出したソニックが頭の上に戻ってきたのだ。そしてツェッドさんのほうに飛び移って、肩だとか頭だとかを駆け回ったあと、ちょこんと膝の上に落ち着いた。ああこの野郎、俺もそんなふうにたくさん触りたいのに。こらソニック。叱るついでに手を差しのべて、さりげなく、ほんの少しだけ彼に触れる。すみませんツェッドさん。構わないですよ。話しながら考えているのは、これからどうしたらもっと触れるのかとそればっかりで、我ながら最低だと思った。あの銀髪には劣るけれど。
回収したソニックは、僕の頭の上に落ち着いた。かと思えばまたどこかへ消えてしまう。今日は妙にハイテンションだな、飼い主に似るって本当だったのか。うつむいてそう考えたとき、ぽん、となにかが頭に乗った。重さが違う、温度が違う、表面積が違う。ソニックじゃない。じゃあなにが。咄嗟に目線を隣にやると、微笑むツェッドさんがいた。

「……ツェッドさん、あの?」

幼い頃によくやられた、最近ではK.Kさんによくやられるこの仕草。髪に絡む指が動く。動揺した思考でも撫でられているのだとはっきりわかった。とびきり優しく撫でられている。少しひんやりした、水掻きのあるあの手で、とんでもなく優しく撫でられている。ぶわわっと音がしそうなくらい一気に顔が熱くなって、あっやばい、これはごまかせない。

「すみません。……ちょっと触りたくなって」

そしてとどめのこのセリフ。こんなのどこで覚えてきたんだと言いたいけれど、どうせ天然故に出てきたものだろうから飲み込んだ。
ごまかしようのないくらい真っ赤な顔を、とにかく見せまいと片手で覆う。だけどすでにだいぶ限界で呻き声が止まらない。そのうえ彼の優しい声で「レオ君」と呼ばれてしまったらもう、喉まで出かかった言葉は飲み込めそうになかった。
ええい友人とかなんとか知るか、吐き出してしまえ!
ツェッドさん、名前を呼んで顔をあげた、そのときだ。

「好きです、レオ君。この気持ちは友愛じゃない。僕はどうやら、君と恋人になりたいらしいんです」

……なにを言おうとしてたんだっけ。頭は真っ白、口は半開き。義眼を惜しげもなく晒し、熱かった顔はさらに温度を上げている。二、三度、魚みたいに口を開いて、閉じて、もう一度名前を呼ばれて、まっさらな世界にようやく声だけは取り戻した。

「俺もめちゃくちゃ好きです…………」

出てきたのは本音百パーセントのかすれた声。思考ゼロの体はあまりに正直で、告白の返事としては酷いものだったが、目の前の元・友人がとても、言葉じゃ表せないくらいには喜んでくれたから、どうでもよくなった。