どうか傍で眠らせて

うっすらと目が覚めて、手に触れたさらさらとしたものを認識した瞬間一気に覚醒した。
腕の中にすっぽりと納まる彼女は「ん、」と小さく声を出す。寒そうに身をよじったのを見て慌てて毛布を掛けなおした。

「……なんでいんの?」

ぐるぐる廻る思考回路、ショート寸前とはまさにこのことか。とにかく熱い顔をなんとかしようと深呼吸。鼻孔をくすぐる匂いにたまらず息を止めた。

合鍵を使って入ったのだろう。そこまではわかる。いつでも来ていい、と渡したのは自分だった。
わからないのは同じ布団に入っていた理由だった。時刻は12時、いつもならば布団をひっぺがして、「何時だと思っているの!」と眉を吊り上げている時間なはずだ。だというのに現実には、胸に頭を押し付け、不動の腕を枕に寝息をたてる夏未がいる。

一周回って冷静になった。止めていた息を吐き出す。なんとなく惜しい気もするが、とにかく一度起こそう。

「……夏未さん、起きな」
「ん……」
「おはよ。いま十二時だけど」
「……おはよう、ふどうくん」

寝ぼけ眼の夏未は、不動の背に腕を回してすり寄ってくる。上がる心拍数に気づかないふりをして髪を撫でた。

「なんでいんの」
「……いつでも来いって言ったわ」
「そうじゃなくて。なんで寝てんの」

夏未がぴたりと動きを止めた。「夏未さん?」呼びかける声に反応はない。
もう一度名前を呼んで髪を撫でたとき、ほんのり赤い頬をした夏未が顔をあげた。

「だって、あなた、いつも一緒に寝てくれないのだもの」
「……ええと?」

確かに泊まりに来たときは、夏未にベッドを明け渡して不動はソファで眠っていた。逆に泊まりに行くときも同じだ。常に寝床は別々で、ひとつの布団をともにしたことなどなかった。
一種の自衛にも近い習慣に、夏未がどう思っているかなど知るはずもない。不意に囁かれた不満に動揺が隠せず、固い笑顔を浮かべた不動へさらなる追い打ちが待っていた。

「あのね。隣で眠るくらい、許してちょうだい」

おねがいよ。

小さく開いたくちびるからこぼれた、めったとないかわいらしいおねだり。衝動に任せて抱きしめて、耳元で「よろこんで」と囁くと、夏未はふふ、と小さく笑みをこぼした。