だいすきなひと

夏未さん、と呼ばれるたび、わたしはなんだかくすぐったくて、ふわふわした気分になるの。不動くんはそういうとき、決まって優しくわらっていて、わたしはそれがまた嬉しくて、ふわふわどきどき、ふしぎな気分になるの。つまりこれが、好きっていう気持ちかしら。
そう音無さんに訊ねてみたら、彼女、ほっぺたを真っ赤にして……それがとてもかわいらしかったの。

「聞いてて恥ずかしくなるくらいのノロケっぷりですね……」

ですって。音無さんがそう言った意味はよくわからなかったけれど……まあ、そういうことなのかしら。
わたしは不動くんがだいすきだし、不動くんもたぶん……いいえ、絶対に、わたしをすきでいてくれる。
自意識過剰なんかじゃあないわ、わたしね、本当にほんとうに彼がすきだから。見ていたらね、わかるのよ。目線とか、指先とか、さりげない仕草とか、ぜんぶね、わたしのことをすきって、いってくれているの。ふふ。かわいいでしょう? わたし、そんな不動くんがだいすきなのよ。

でもね、不動くんは、わかってくれないの。鈍いのね。サッカーに関してはあんなにも鋭いのに、自分にむけられた、プラスの感情にね、鈍いの。だからわたし、いつもたくさんすきって言いたいのだけれど……なかなか素直には、なれないのよね。わたしも彼も。

……たまに、妬けてしまうわ。鬼道くん。だって、彼らはあんまりに、お互いにわかりあっていて……ずるい。わたしはグラウンドに立てない、のに、彼らはそこで、……いいえ。こんなのはただの、どうでもいいやきもちだわ。わたしと鬼道くんは違うもの、違うからこそ、ほかのところから彼を支えてあげられるのよね。ひとりで彼全部を支えようだなんて。傲慢もいいところね。いつからこんなに……なんて、彼に言ったら笑われてしまいそうだわ。ふふ。わがままお嬢様だもの、わたし。

ああ、そうね。そろそろ彼が試合に出るころだわ。ちゃんと見てないと怒るのよ。子供みたいでしょう?

あら。一之瀬くんも? ……ふふ。お互い大変ね、秋さん。