薄桃色に込める

ひらひらおちる花びらを、必死に追う少年がひとり。それは紛れもなくかわいい恋人の姿で、呆れながら声をかけた。

「……なにやってんだ」
「! 南沢さん?!」

勢いよく振り向いた顔が徐々に赤く染まって行く。そりゃ恥ずかしいだろうと思いつつフォローはしない。倉間は手の甲で顔を拭って、おれの目は見ないまま言った。

「いや、なんとなく、掴めないかなとか思って……」

タイミング最悪、と言った声は聞かなかったことにする。こっそり撮った写真はあとで待ち受けにでもしよう。

「……地面につくまえにとれたら願いが叶う、とかなんとか」
「!」

倉間の耳が赤くなるのを見届けて、どうやら図星かと口角があがるのを抑えられない。普段は素直でないくせに、こういうときの反応はわかりやすすぎるくらいだ。
すっかり俯いてしまった倉間を見下ろす。ちょうどてっぺんに、薄桃色を見つけてつまみ上げた。

「……倉間」

呼んでも頑なに顔はあがらない。かわいいやつめと覗き込んで、ついてた、と花びらを目の前に。

「叶ったか?」

笑いかけるとよけいに赤くなって、悔しげに唇を噛む。おれが見つめたままでいると観念したのか、ううと呻いた。

「……叶いました」
「そりゃよかった」

倉間の手のひらに花びらを置く。迷いながらも握りしめたのを確認して、反対側の手をとって歩き出した。

「なにか知らないけど、叶ってよかったな。なにか知らないけど」
「……ッ」

「痛い痛いごめん痛い」

不必要に強く握られた指に思わず声をあげる、と、むくれたままだった倉間がようやっと笑った。
うん、おれの願いも叶った。