「南沢さんてこう、ふ、って笑いますよね。俺がなんかしたら」
ふたりで借りたアパートの一室。
なんともなしにそう言うと、キッチンでコーヒーをいれていた南沢が、「はあ?」と眉間に皺を寄せた。
「したことないけど」
「えー嘘だぁ、笑うじゃないですか。手握ったり、くっついたらこう、ふ、って。昔から。俺見て」
コーヒーをひとくち。ゆっくりと飲み込んだ南沢は、少し考えるそぶりをしてからふい、と倉間に背を向けた。
「そんなの知らねーよ」
そのまま残りのコーヒーを一気に飲んで、マグカップを流しに置く。そのときちらりと見えた表情に、倉間が早足で駆け寄った。きれいなかたちをした耳が、徐々に赤く染まっていく。
「……水かけんぞ」
知らず緩んだ倉間の顔に宣言通り水を散らして、南沢は「……無意識だよ」と恋人の額を小突いた。