つけこまれた

無言ですりよってくる相手からじりじりと逃れつつ、どうするべきか考えていた。

やめてください、離れてください。何度か重ねた言葉は南沢さんには届かないらしく、いくら跳ね除けても黙ったまま、おれの胸元に頬をよせるばかり。ばくばくうるさい心臓の音も聞かれているのだろう、と思うとどうにも恥ずかしくてしかたがなかった。

「……南沢さん、離れて」
「……」
「……いーかげんなんか喋ってくださいよ」

呆れてふう、とため息をつく。ぺったりくっついたままだった南沢さんがゆっくり顔をあげて、目が合った。
背に回った腕に入る力が増した。離れろと言っているのにこのひとは。眉間にしわがよる。それでも、おれをすがるように見つめる南沢さんからは、逃れられなかった。

「どうしても?」
「……そこにいたら、キスできないでしょ」

首に指を這わす。南沢さんはとびのくようにおれから離れて、今度はおれの首に腕を回した。目を閉じる気はないようで、特徴的な瞳を長いまつげからのぞかせて、待っている。

(……ああ、またやられた)

何度目かわからないため息をついて、唇を重ねた。